2026年4月30日木曜日

「祝えぬ春 ― Djurdjevdan(ジョルジェヴダン)」グルパ・マエストロ(北マケドニア)



Grupa MAESTROと「Djurdjevdan」

――バルカンの記憶を歌い継ぐ名曲

バルカン半島には、国境を越えて人々に愛され続ける楽曲が数多く存在します。その中でも特別な存在として知られているのが、「Djurdjevdan(ジョルジェヴダン)」です。

北マケドニアの民族音楽グループ、Grupa MAESTROも、この楽曲をレパートリーの一つとして演奏しています。しかし、この曲は単なる民謡ではありません。

そこには、バルカンの歴史、民族文化、そして人々の記憶が深く刻み込まれています。


Grupa MAESTROとは?

北マケドニアの民族音楽継承グループ

Grupa MAESTROは、北マケドニア国内で活動する民族音楽グループです。

彼らの大きな特徴は、伝統音楽を単に保存するだけではなく、現代のライブ・エンターテインメントとして再構築している点にあります。

レパートリーは北マケドニアの民謡にとどまらず、

  • セルビア
  • ブルガリア
  • ボスニア・ヘルツェゴビナ
  • ギリシャ

など、バルカン半島全域の伝統音楽に及びます。

また、地域の祭礼や結婚式などでも演奏することが多く、人々の日常生活に密接に結びついた活動を続けています。

そのため、Grupa MAESTROのステージでは、「Djurdjevdan」のような旧ユーゴスラビア圏全体で共有される楽曲が頻繁に演奏されています。


「Djurdjevdan」とはどのような曲なのか

誰の歌とも言い切れない名曲

「Djurdjevdan」は現在、

  • セルビア人
  • ボスニア人
  • モンテネグロ人
  • 北マケドニア人
  • ロマ民族

など、多くの人々によって歌い継がれています。

興味深いのは、この曲を

「特定の民族だけの歌」と断定できない

という点です。

楽曲のルーツは、ロマ文化圏で祝われる春祭り

「Ederlezi(エデルレジ)」

にあると考えられています。

その後、

  • ロマ文化
  • 第二次世界大戦の記憶
  • 旧ユーゴスラビア時代の共有文化

が重なり合い、現在知られている形へと発展しました。

そのため「Djurdjevdan」は、

「一つの民族の歌」ではなく、「バルカン全体の記憶を歌う作品」

として受け止められることが多いのです。



歌詞が描く世界

春の祝祭の中にある深い悲しみ

「Djurdjevdan」は、聖ゲオルギオスの日(5月6日)の祝祭を背景にしています。

歌詞の流れを要約すると、

  1. 春が訪れる
  2. 世界は祝祭の喜びに満ちている
  3. しかし、語り手だけは喜ぶことができない
  4. 愛する人も、自由も失われている
  5. 季節だけが無情に過ぎていく

という構造になっています。


再生する自然と、再生できない人間

この作品で特に印象的なのは、

自然界は春とともに再生するのに、人間だけが再生できない

という対比です。

そのため、この曲は単なる失恋の歌としてだけではなく、

  • 喪失
  • 追放
  • 戦争
  • 故郷の喪失

といった、より普遍的な悲しみを象徴する作品としても解釈されています。

だからこそ、多くの人々が自らの経験を重ね合わせ、世代を超えて歌い継いできたのでしょう。



Bijelo Dugme版と世界的な広がり

バルカン全域に広めた1988年の名演

「Djurdjevdan」がバルカン全域で広く知られるようになったきっかけは、1988年に発表されたBijelo Dugme版でした。

中心人物となったのは、作曲家・音楽家の Goran Bregović です。

Bregovićは後に映画監督 Emir Kusturica との共同制作でも知られるようになり、

  • ブラスバンド
  • ロマ音楽
  • 民族旋律
  • 宗教音楽

を融合させた独自のサウンドを世界へ紹介しました。

今日、「Djurdjevdan」が国際的にも知られるようになった背景には、彼の功績が大きく影響していると考えられています。


なぜ北マケドニアでも愛されているのか

「Djurdjevdan」はセルビア語で歌われる楽曲ですが、北マケドニアでも非常に高い人気を誇ります。

その理由は、かつて存在した Yugoslavia にあります。

旧ユーゴスラビア時代には、

  • セルビア
  • クロアチア
  • ボスニア・ヘルツェゴビナ
  • 北マケドニア
  • モンテネグロ

が同じ国家を形成しており、音楽市場も事実上共有されていました。

その結果、「Djurdjevdan」は国境を越えた共通文化財として定着したのです。

現在、Grupa MAESTROがこの曲を演奏する際も、

「セルビアの歌」というより、「バルカン全体の共有遺産」

として扱われていると考えるのが実情に近いでしょう。


まとめ

Grupa MAESTROとは

✅ 北マケドニアを代表する民族音楽継承グループ

✅ 伝統音楽を現代的なライブ音楽として再構築

✅ バルカン全域のレパートリーを演奏

「Djurdjevdan」の魅力

✅ 聖ゲオルギオスの日を題材としたバルカンの名曲

✅ ロマ文化の春祭り「Ederlezi」をルーツに持つ

✅ 戦争、喪失、故郷への想いなど、地域の歴史的記憶と深く結びついている

✅ 「再生する自然」と「再生できない人間」の対比を描く普遍的な悲歌

「Djurdjevdan」は、単なる民謡を超えた存在です。

それは、バルカンの人々が共有する歴史と感情を映し出す、地域全体の集合的記憶の歌と言えるでしょう。

その象徴的な存在感から、しばしば

「バルカンの第二の国歌」

と呼ばれることもある、バルカン音楽を代表する名曲の一つです。


0 件のコメント:

コメントを投稿

「哀れな男ね~El Pobre」ナタリア・ヒメネス(メキシコ)

Natalia Jiménez「El Pobre」 ~お金では買えない“本当の豊かさ”を歌うランチェラ~ 楽曲紹介 「El Pobre(エル・ポブレ)」は、スペイン出身の歌手 Natalia Jiménez が2023年に発表した楽曲です。 伝統的なメキシコのランチェラとマリアッ...