Grupa MAESTROと「Djurdjevdan」
――バルカンの記憶を歌い継ぐ名曲
バルカン半島には、国境を越えて人々に愛され続ける楽曲が数多く存在します。その中でも特別な存在として知られているのが、「Djurdjevdan(ジョルジェヴダン)」です。
北マケドニアの民族音楽グループ、Grupa MAESTROも、この楽曲をレパートリーの一つとして演奏しています。しかし、この曲は単なる民謡ではありません。
そこには、バルカンの歴史、民族文化、そして人々の記憶が深く刻み込まれています。
Grupa MAESTROとは?
北マケドニアの民族音楽継承グループ
Grupa MAESTROは、北マケドニア国内で活動する民族音楽グループです。
彼らの大きな特徴は、伝統音楽を単に保存するだけではなく、現代のライブ・エンターテインメントとして再構築している点にあります。
レパートリーは北マケドニアの民謡にとどまらず、
- セルビア
- ブルガリア
- ボスニア・ヘルツェゴビナ
- ギリシャ
など、バルカン半島全域の伝統音楽に及びます。
また、地域の祭礼や結婚式などでも演奏することが多く、人々の日常生活に密接に結びついた活動を続けています。
そのため、Grupa MAESTROのステージでは、「Djurdjevdan」のような旧ユーゴスラビア圏全体で共有される楽曲が頻繁に演奏されています。
「Djurdjevdan」とはどのような曲なのか
誰の歌とも言い切れない名曲
「Djurdjevdan」は現在、
- セルビア人
- ボスニア人
- モンテネグロ人
- 北マケドニア人
- ロマ民族
など、多くの人々によって歌い継がれています。
興味深いのは、この曲を
「特定の民族だけの歌」と断定できない
という点です。
楽曲のルーツは、ロマ文化圏で祝われる春祭り
「Ederlezi(エデルレジ)」
にあると考えられています。
その後、
- ロマ文化
- 第二次世界大戦の記憶
- 旧ユーゴスラビア時代の共有文化
が重なり合い、現在知られている形へと発展しました。
そのため「Djurdjevdan」は、
「一つの民族の歌」ではなく、「バルカン全体の記憶を歌う作品」
として受け止められることが多いのです。
歌詞が描く世界
春の祝祭の中にある深い悲しみ
「Djurdjevdan」は、聖ゲオルギオスの日(5月6日)の祝祭を背景にしています。
歌詞の流れを要約すると、
- 春が訪れる
- 世界は祝祭の喜びに満ちている
- しかし、語り手だけは喜ぶことができない
- 愛する人も、自由も失われている
- 季節だけが無情に過ぎていく
という構造になっています。
再生する自然と、再生できない人間
この作品で特に印象的なのは、
自然界は春とともに再生するのに、人間だけが再生できない
という対比です。
そのため、この曲は単なる失恋の歌としてだけではなく、
- 喪失
- 追放
- 戦争
- 故郷の喪失
といった、より普遍的な悲しみを象徴する作品としても解釈されています。
だからこそ、多くの人々が自らの経験を重ね合わせ、世代を超えて歌い継いできたのでしょう。
Bijelo Dugme版と世界的な広がり
バルカン全域に広めた1988年の名演
「Djurdjevdan」がバルカン全域で広く知られるようになったきっかけは、1988年に発表されたBijelo Dugme版でした。
中心人物となったのは、作曲家・音楽家の Goran Bregović です。
Bregovićは後に映画監督 Emir Kusturica との共同制作でも知られるようになり、
- ブラスバンド
- ロマ音楽
- 民族旋律
- 宗教音楽
を融合させた独自のサウンドを世界へ紹介しました。
今日、「Djurdjevdan」が国際的にも知られるようになった背景には、彼の功績が大きく影響していると考えられています。
なぜ北マケドニアでも愛されているのか
「Djurdjevdan」はセルビア語で歌われる楽曲ですが、北マケドニアでも非常に高い人気を誇ります。
その理由は、かつて存在した Yugoslavia にあります。
旧ユーゴスラビア時代には、
- セルビア
- クロアチア
- ボスニア・ヘルツェゴビナ
- 北マケドニア
- モンテネグロ
が同じ国家を形成しており、音楽市場も事実上共有されていました。
その結果、「Djurdjevdan」は国境を越えた共通文化財として定着したのです。
現在、Grupa MAESTROがこの曲を演奏する際も、
「セルビアの歌」というより、「バルカン全体の共有遺産」
として扱われていると考えるのが実情に近いでしょう。
まとめ
Grupa MAESTROとは
✅ 北マケドニアを代表する民族音楽継承グループ
✅ 伝統音楽を現代的なライブ音楽として再構築
✅ バルカン全域のレパートリーを演奏
「Djurdjevdan」の魅力
✅ 聖ゲオルギオスの日を題材としたバルカンの名曲
✅ ロマ文化の春祭り「Ederlezi」をルーツに持つ
✅ 戦争、喪失、故郷への想いなど、地域の歴史的記憶と深く結びついている
✅ 「再生する自然」と「再生できない人間」の対比を描く普遍的な悲歌
「Djurdjevdan」は、単なる民謡を超えた存在です。
それは、バルカンの人々が共有する歴史と感情を映し出す、地域全体の集合的記憶の歌と言えるでしょう。
その象徴的な存在感から、しばしば
「バルカンの第二の国歌」
と呼ばれることもある、バルカン音楽を代表する名曲の一つです。